あの夏の坂道。

駅メモのこととか旅行のこととかを、仕事してるフリをして書いています。

マスターオブ高知を目指す旅② 宿毛線編

「……ター………マスター……マスター!」

るりが小さな身体で僕を必死に揺さぶって起こした。

「ん…どうしたの?」

目を擦りながらるりに尋ねる。時計を見ると、2時間ほど眠ったのだろうか。ほぼ寝ずに13時間のバス移動をしてきた身体には十分とは言えない睡眠時間だったが、それでも幾分すっきりした気がした。るりはなんだか慌てた様子だ。

 


「お母様がお呼びです!」

小声で僕にそう言う。なるほど、確かに1階から2階の僕の部屋に向けて大きな声で母親が呼びかけていた。返事をすると、お風呂が沸いたから入ってしまいなさい、ということだ。もうすぐ父親も返ってくるらしい。
しかし、なんとも懐かしさを感じるシチュエーションだ。中学・高校の頃と、こうやって何度も呼びかけられたな、その時は結構煩わしいとも思ったりしたな、なんて考えながら布団から出る。

「お風呂に入って夕飯になると思うんだけど…るりもポケットに入ってリビングにおいでよ」
「えっ、いいんですか?」
「この部屋で一人で待ってるってんじゃ寂しすぎるでしょ。僕が両親と話してる間、暇かもしれないけどついておいで。そのあとちょっと料理を持って自分の部屋に上がるからさ。そこで改めて作戦会議でもしながら二人で食事しよう」
「はい!ありがとうございます!」

るりの顔がぱあっと明るくなった。この部屋で一人で待つことを想定してたのかな。流石にそんな侘しい思い、させられるわけがない。

「マスターのご両親に、こっそり心の中でだけど、ご挨拶しなきゃ…!」
「ははっ、そんな…彼女を連れて帰ってきた、みたいじゃん」

張りきった様子のるりに、ぽろっとそんなツッコミをいれて、自分の言ったことを意識してしまって気まずくなった。るりも気づいたようで、顔を見合わせる。

「い、いやほら、まあそんなに気負わずにさ。も、もし両親に見えないようだったらポケットから出てくつろいでもいいし…」
「そ、そうですね、あはは…」

余計なことを言ってしまった。なにをドキドキしてるんだ、いい歳して恥ずかしい。

そんなこんなで、久しぶりの母親の味と両親との会話を楽しんで、るりと部屋で明日以降の予定を確認した後、この日は早めに眠った。

 

 

さて。流石に自分とるりのドキドキシーンを書いてしまうとシームレスな本編への移行は厳しい。何をやっているんだ僕は。でんこの出てくるお話を書くのは全然いい。むしろ素晴らしいことだ。しかしなぜ僕は自分とでんこがイチャイチャする話を書いているんだ。親の前で朗読してみろ。いい歳して恥ずかしい。

ともあれ、28日の夜に新宿を発ち、29日の朝に中村駅に到着。その間ほぼ睡眠もとらずに駅メモをやっていたわけで、この日の夜はぐっすりと眠れた。
このあとは年が明けて1月2日まで駅メモ攻略の予定はなかったのだが、31日にちょっと中村駅の方まで行かなければいけない用ができたので、2日に予定していた一部を繰り上げて行うことになった。

30日はクラスの同窓会があったので参加したのだが、顔を合わすのが成人式の時以来の友人もいて、大変楽しい会だった。
同窓会については本当に僕の個人的な用事なので、ここに書くことでもないと思うんだけど、面白いことがあったのでふたつほど紹介させてほしい。

一次会が終わり、みんなで写真を撮ろうということになり、宴会場のスタッフであるおばちゃんに写真をお願いすることになった。
友人がスマホを渡して、操作方法を伝え、写真を撮ってもらうんだけど…僕たちから見ても、明らかにおばちゃんの指が入ってしまっているように見える。スマホのレンズの前に指がかかっているのだ。

「おばちゃん、それ指入ってない?」

と指摘するんだけど、おばちゃんは

「入ってない入ってない!はい、撮るよ!」

と撮影を強行する。はーいもう一枚!なんて言いながら何枚も撮ってくれるんだけど、やっぱり指が入っているように見える。

「おばちゃん、どう見ても指が入ってるように見えるんだけど…」
「入ってないってば!はいはい笑ってー」

まあ、そうだよな。スマホでの撮影なんだから、指が入ってたら画面でも確認できるわけだし、おばちゃんがそういうんだから入ってないんだろう。

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やっぱり指入ってるじゃねーか。

まあこの程度気にするものでもないんですけどね。慣れないスマホ操作で写真を撮ってくれてありがとう、おばちゃん。

そして、二次会もダラダラ続けたんだけど、最終的にはまあ特によく遊んでいた4人が残って三次会までいって、最後に帰るときにまた居酒屋のおばちゃんに写真を撮ってもらった。
何の変哲もない、昔ながらの古くて狭い居酒屋だったので、比較的広い入り口付近で写真を撮ってもらったんだけど

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スペースがなく、こんな形で撮ってもらったため「カラーテレビが初めて我が家にやってきた記念」みたいな写真になってしまった。テレビで流れているのがバックトゥザフューチャーというのもなんだかその感じを強調している。
佐清水は田舎だけど、カラーテレビくらいは当たり前のようにあるので安心してほしい。


内輪の話を長々と失礼しました。
さて、ここでマスターオブ高知を達成するための計画を、一部話させてもらおう。
JR四国のサイトより路線図を引用させてもらうが、わかりやすいように四国全体のものを引用させてもらった。

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この内、僕がすべて駅を取得しなければいけない、高知県内の路線は以下の通りだ。

土佐くろしお鉄道 中村・宿毛線
土佐くろしお鉄道 ごめん・なはり線
・JR予土線高知県内の駅
・JR土讃線高知県内の駅
阿佐海岸鉄道阿佐東線高知県内の駅

このようになる。
これに、さらに高知市内周辺を走る路面電車も加わるのだが、路線図が細かすぎることになってしまうのでそれはまた後述する。

この攻略しなければいけない路線の内、土佐くろしお鉄道中村・宿毛線は、中村駅が画像中に表記されていないが、「宿毛ー中村ー窪川」と繋ぐ路線で、宿毛ー中村が「宿毛線」で、中村ー窪川が「中村線」となっている。

この「中村線」と、中央付近を縦断するピンク色の「JR土讃線」は、横浜に戻る際の通り道なので問題なく取得ができる。普通に必要な移動の際に取得できてしまうわけだ。
それ以外の、通り道ではない「土佐くろしお鉄道宿毛線」「土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線」「JR予土線」「阿佐海岸鉄道阿佐東線」は、移動時以外にそれらを取得するために攻略する必要がある。

本来、宿毛線予土線は年が明けて2日に攻略する予定だったんだけど、31日に中村方面に出かける用ができたので、ついでに宿毛線だけでも攻略してしまうことにした。
とは言え、この日は車移動での攻略だった。線路沿いに車で移動して駅を取得していくという攻略方法で、取得すべき駅のエリアに入ると音声で通知してくれるようにしておき、そのエリア内で信号で止まった際にチェックインをする、もしくはどこかに一旦停車してチェックインする、という方法をとったため、チェックイン画面のスクショもろくに取れていない。
本当は簡単に駅の写真なども撮りたかったんだけど、この日は用事のついでで攻略してしまったため、時間が押していてその余裕もなかった。ご了承願いたい。
宿毛駅に向かうまでの道中、少しだけ寄り道をして写真を撮ってはいたので、代わりというわけでもないがそれらをご覧いただきたい。

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僕の地元の海だ。
テレビなんかで沖縄の海とか海外のリゾート地の海を見るたびに、「土佐清水の海もこんなに綺麗だったらなあ」とか思っていたんだけど、僕の記憶違いだった。海、めちゃめちゃ綺麗だ。
ここは道中綺麗に海が見えた場所をとりあえず撮ったものなので、砂浜ではなく磯なんだけど、それでも海の綺麗さは伝わると思う。
もちろん、海水浴が楽しめるビーチもある。数年前にTwitterなどSNSを中心に話題になった「柏島」もこの近くからアクセスできる。2020年の夏、お金と時間に余裕のある人はぜひとも高知県土佐清水市に海水浴に来てみて欲しい。なかなかにアクセスが大変な地域ではあるが、交通費と時間をかけただけの体験ができると思う。

海沿いの道を走り抜け、今度は山側の道を通って宿毛駅に向かう。その間の風景も、のどかなものだ。

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なんせ、この雄大な自然の中を通る道路に、マジで僕以外の車が走っていない。もちろん人も歩いていない。
ここまでくるとのどかを通り越して、ひょっとして僕以外の人類は全滅してしまったのではないかと不安になってくるレベルだ。焦ってラジオをつけたら、高知のローカル放送が流れていたので人類はまだ滅亡していないと安心できた。

こんな道をひた走り、またも海沿いの道に出て、そして宿毛市内の「道の駅すくも」で少し休憩をすることにした。
この施設の写真も撮り忘れてしまっていた。情けない。なので代わりに

www.michi-no-eki.jp


こちらの道の駅公式サイトをご覧ください。
すぐそこが港になっていて、海のそばまで降りられます。カフェスペースでは海を見ながらホッと一息つける素敵な道の駅です。

そして港側に降りた先にあった堤防。

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絶対に真夏に若い女の子を立たせたら映えるスポットだ。一色紗英とかがポカリのCMとかやってそうな場所だ。歳がバレる。瞳そらさないで
あと、別にどうでもいいんだけどこんな写真も撮っていた。

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階段がおしっこ漏らしている写真。
ホントなんでこんなの撮って道の駅の外観を撮ってないんだ。


そんなこんなで宿毛駅付近に到着し、線路沿いの道を車で走りながらチェックインしていきました。前述の通り、写真がありません。ですがまあとにかく…

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土佐くろしお鉄道宿毛線をコンプリートです!
そして中村駅周辺で用事を済ませて、自宅への帰路につきました。なんてさらっと書いてるけど、この日だけで100km以上は移動している。つくづく田舎というものは怖い。
帰り道に、サーファーの間ではちょっと有名な(と土佐清水市民が勝手に思い込んでいるだけかもしれない)砂浜の写真。

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ちょっと日も落ちかけててアレですが、キレイで真夏はホントにたくさんのサーファーが訪れる場所です。
ただ、潮の流れが危ない、いわゆる「離岸流」とやらが発生する場所で、海水浴には向いていないというちょっと残念な場所でもあります。でもまあ僕らは泳いでたけどな。命の危険の可能性もありますのでご注意ください。

さて、12月31日。いよいよ2019年もおしまいです。
今年は個人的には何かと激動の年でした。良いことも悪いこともたくさんあったように思います。
その中で、駅メモに出会えたことは大きな「良いこと」だったように思います。鉄道に全く興味のなかった僕が、こんなにも駅メモにハマるとは思っていませんでした。この歳になって、こんなにハマれる新しい趣味がみつかったことを嬉しく思います。
そう考えてみると、色んなことがあったけど、前に進めたいい年だったんじゃないかな、なんて思えてきたりもする。

両親も年なので、大晦日とは言え早めに布団に入り、0時を待つことはない。
僕も最近は0時前に眠ることが多くなってきたけど、大晦日くらいはせめて年が明けるまでは起きておこうと思い、自分の部屋でちびちびと飲みながら過ごした。

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帰り道で買ってきた日本酒「てっぺん四万十」。
なんとなく選んだお酒だったけど、僕の好きな西岡酒造さんのお酒だった。

「てっぺん四万十…私たちも高知県の全駅を制覇して、てっぺんを目指しましょう!」

るりがなんだか上機嫌にそう言った。

「まあてっぺんは無理でも、絶対に全駅制覇は達成しなきゃな」
「そんな弱気でどうするんですか!てっぺんを目指しましょう!!」

な、なんか異様にテンションが高い。あっ!コイツお酒飲んでやがるな!?

「だ、大丈夫なのかお酒なんか飲んで…」
「マスターだって飲んでるじゃないですか!私だって大晦日くらいはお酒飲んだりしたいです!!」

まあ、ちょっといつもより元気すぎる感じになってるけど、一緒にお酒を飲める相手がいるというのも楽しいものだ。

今日はほんのついでに駅を取得する感じだったけど、遠い未来からやってきて、横浜を中心に都会で過ごしてきたるりには新鮮な光景ばかりだったようだ。
今日撮った写真を見返しながら、なんだかんだと話している内に、もう間もなく年が明けようとしている時間になっていた。NHKで「ゆく年くる年」が流れている。僕は、テレビの向こうの、たくさんの初詣の参拝客の列を見つめながら言った。

「…るり、改めて言うのはなんかちょっと恥ずかしいんだけど…なんでもないおつかいがこんなにも楽しいおでかけになるなんて、きっとるりが来てくれないと知らないままだったと思う。本当に僕のところに来てくれてありがとう。出不精で頼りないマスターだけど、これからもよろしくね」

…無言。多分だけど、るりは今顔を真っ赤にしている。僕にはわかる。なぜなら、僕の顔だって今真っ赤になってるだろうから。お酒を飲んでいるからだけじゃない、ドキドキで顔が火照っていた。

……それにしても無言が長過ぎやしないか。ひょっとして、感動で涙でも流してるのか?そうしたら、少し茶化してからかってやろう。そんな風に、来年も一緒に過ごしていこう。
…そう思ってチラッとるりの様子を伺うと、完膚なきまでに眠っていた。
なんだよもう!!ドキドキしていたのは僕だけだったのだ。顔を赤くしていたのも僕だけだったのだ。いや、るりの顔もちょっと赤くなっていたけど、それは多分お酒を飲んだからだ。

そのとき、テレビから鐘の音が聞こえ、年が明けた。2020年、新しい年がやってきたのだ。
まあ、いいか。慣れないお酒を飲んで、年明けの瞬間を夢の中で迎えてしまったるりを、明日の朝は少し茶化してからかってやろう。そんな風に、来年も、これからもずっと、一緒に過ごしていこう。そう思った。


続く。